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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)4880号 判決

原告 渡辺和男

被告 富士アンテナ株式会社 外一名

主文

被告らは各自原告に対し金三五五、〇〇〇円及び内金二〇〇、〇〇〇円に対する昭和二九年一二月二〇日以降、内金一五五、〇〇〇円に対する昭和三〇年一月一〇日以降完済まで年六分の金銭を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は仮に執行することができる

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項と同旨の判決並に仮執行の宣言を求め、請求原因として、

被告乙会社は昭和二九年一〇月三〇日有限会社山佐材木店宛に次の約束手形二通を振り出した。

一、金額二〇〇、〇〇〇円、満期同年一二月二〇日

支払地東京都葛飾区、振出地同都江戸川区

支払場所東栄信用金庫

二、金額一五五、〇〇〇円満期昭和三〇年一月一〇日

支払地、振出地、支払場所一、に同じ

原告は右各手形を宛名会社から白地裏書により譲り受け、株式会社三井銀行に取立委任のため裏書をなし同銀行において各満期に支払場所に呈示したが、支払を拒絶された。

ところで、被告乙会社は昭和二九年一二月二八日解散し、被告甲会社は昭和三〇年二月二一日設立登記を経由したものであるが、両会社は商号、営業目的、営業場所、取締役(高橋利男、岡田栄逸、永山進吉、近藤重英が両会社の取締役で乙会社の解散当時の代表取締役は高橋利男であり、甲会社は発足当時岡田栄逸が単独の代表取締役であつたが、昭和三一年四月五日更に高橋利男が代表取締役に就任し同日その旨の登記を経由した)得意先、仕入先、従業員及び使用電話の番号を同じうするので、甲会社は被告乙会社の営業を譲り受け、且つ商号を続用しているものに該当し、商法第二六条に基き被告甲会社は被告乙会社の債務を支払う義務を負うわけである。

よつて被告両会社に対し各自右手形金とこれに対する各満期の日以降完済まで手形法所定の年六分の利息の支払を求める

なお被告の自白の撤回に異議がある。

と述べ、

証拠として

甲第一、二号証の各一ないし二、同第三ないし第五号証を提出し、証人高橋隆次の証言と被告乙会社代表者清算人野川伯の尋問の結果を援用し乙号各証の成立を認めた。

被告ら訴訟代理人は請求棄却の判決を求め答弁として原告主張事実中

被告乙会社として、

同被告が原告主張の手形を振り出し、原告がこれを裏書により取得したとの事実を認めたのは事実に反し錯誤に基くものであるので、この自白を撤回する。

右各手形は同被告会社の代表取締役高橋利男の妻志津江が利男に無断で社長の記名印と本人の印を使用して作成交付したものであるので、振出は否認する。裏書は認めない。

右手形が原告主張のように取立委任裏書され、その受任者において満期に呈示したこと、両会社の解散設立の点及び商号営業目的、営業場所(但し建物は異る)取締役を同じくすることは認めるがその余の事実は認めない。

被告甲会社として

両会社の解散、設立の点商号営業目的営業場所、取締役を同じくすることは認めるがその余の事実は認めない。

被告両会社として被告甲会社は被告乙会社の営業を渡り受けたものではないので原告の請求は失当である

と述べ、

証拠として乙第一、二号証を提出し、被告甲会社代表者岡田栄逸の尋問の結果を援用し、甲第一、二号証の各一の成立を否認する、但し振出人欄に押捺してある被告乙会社取締役社長高橋利男の記名印及びその名下の印影が右会社社長印及び本人の印で押捺されたものであることは認める。同第一、二号証の各二の成立は不知、同第一、二号証の各三の成立は認める。その余の甲号各証の成立は認める。

と述べた。

理由

被告乙会社が原告主張の約束手形二通を振り出し原告がこれを宛名会社から裏書により取得したとの事実は被告代理人において当初これを認めたところ、その後右は事実に相違し錯誤に基くものであるとの理由で自白を撤回した。

しかしながら右名手形は被告乙会社の代表取締役高橋利男の妻志津江が利男に無断で会社印を使用して作成交付したとの点に関する被告乙会社代表者野川伯、被告甲会社代表者岡田栄逸の各供述は証人高橋隆次の証言に照し措信し難いところであり他に右事実を認むべき証拠なく、また裏書の点が事実に相違する自白であることを認むべき証拠はないので右自白の撤回は理由のないものという外はない。そして原告がその主張のとおり右各手形を取立委任のために裏書し、その受任者においてこれを各満期に支払場所に呈示したことは被告乙会社において認めるところである。

よつて被告甲会社の責任を判断する。

原告主張のとおり被告乙会社が解散し、被告甲会社が設立登記を経由したこと、両会社が商号、営業目的、営業場所(但し建物の同一性をいうものではない)取締役を同じくするものであることは当事者間に争のないところであり、この事実と被告乙会社代表者野川伯、被告甲会社代表者岡田栄逸の各供述によれば、被告甲会社は建物は異るけれども被告乙会社の営業所と同一場所において同一営業を開始し、被告乙会社の得意先と取引したこと、被告乙会社には解散当時格別の資産なく、被告甲会社は被告乙会社使用の電話を譲り受けてこれを利用したこと、被告乙会社使用の従業員の一部を被告甲会社は再雇用してこれを右営業に使用したこと及び両会社とも経営首脳部に変更なく、ただ乙会社の代表取締役高橋利男は甲会社の代表取締役岡田栄逸と交替したけれどもその後高橋は代表取締役に就任したことを認めることができる。

右事実によれば被告乙会社は解散し、被告甲会社が新に発足したというのは単なる名目に止り、経営の実体は別個のものと認めることができないので被告甲会社はその発足に当り被告乙会社の営業を譲り受けたものと推認するのが相当である。

してみれば被告甲会社は被告乙会社の商号を続用するものとして商法第二六条の規定に基き被告乙会社の債務の支払義務を負うものというべきである。

よつて原告の請求を正当として認容し、民事訴訟法第八九条、第九三条、第一九六条に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 西川美数)

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